第57章

オフィスの中は、静かだった。

萩原裕大は金の時計をつけた細長い手で、自分の個人電話番号が記されたプラチナのカードを握っていた。

高橋遥はそれを静かに受け取った。

彼女は彼をしばらく見つめてから、小さな声で尋ねた。「なぜ私を助けてくれるんですか?萩原弁護士、稲垣栄作側につくものだと思っていました」

萩原裕大は答えなかった。椅子の背もたれに体を預け、静かに葉巻を一服吸った。

実は彼自身も理由がわからなかった。

しかし、もし理由を一つ挙げるとすれば、あの日病院で見た彼女の手首の痛々しい傷跡だろう。まるで、かつての母親のように!

違うのは、彼の母は死にたかった。だから、彼女は去った。

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